2006/12/11担当:二村


『メニム一家の物語 −The Mennyms−』

ブロックルハースト・グローブの謎の屋敷


* 作者 シルヴィア・ウォー(ウァフ) *

  1935年、イングランド北東部のゲイツヘッドに生まれ、後にニューカッスル・アポン・タインiに移り住む。公立中学校などの国語教師を務めた後、図書館に勤務。60歳を目前に、当作品“The Mennyms”で小説家としてのデビューを果たす。1993年に出版されたこの作品は1994年にガーディアン児童文学賞iiを受賞し、シリーズは計五巻出版されている。

    メニム以外の作品

*『Space Race2000(さよなら、星のむこうへ,ランダムハウス講談社,2005) 

*『Earth born2002(あの星への切符,ランダムハウス講談社,2006

*『Who Goes Home? 2003(いつか、星にほほえみを,ランダムハウス講談社,2006


* 登場人物(人形)*

マグナス卿  :メニム一家の家長(祖父)。寝たきりで気難しい。学識に優れる。

チューリップ :実際家で意志の強い祖母。編み物が得意。家計を取り仕切る。

ジュシュア  :物静かで気弱な父。倉庫会社の夜景の仕事をしている。

ヴィネッタ  :世話好きで忍耐強い母。子供のことを一番に考える。

スービー(16):全身青い布製。読書好きで内省的。現実的でごっこをしない。

ピルビーム     :スービーの双子の妹。思慮深くしっかりしている。

アップルビー(15):挑戦的な精神を持った少女。

頭の回転が速く、作り話がうまい。

プーピー(10)  :実用的なことに才能がある。工作が得意で根気強い少年。

ウィンピー   :人形やままごとが好き。夢見がちな少女。プーピーと双子

グーグルズ(数ヶ月):末娘。

ミス・クィグリー :唯一家族以外の人形。お客様役で40年間玄関戸棚に住んでいたが、後に乳母として一家に迎えられる。

 

* あらすじ *

物語はメニム一家に届けられた、ある手紙から始まる。それは新しく家主となった青年、アルバート・ポンドが、一家を訪問したいとの旨を伝えたものだった。送り主は分別のある思慮深い人物のようで、内容も友好的なものだ。

   しかしそこに住む一家にとって、それは大変な事件だった。なぜなら彼らは、人間ではなく等身大の布製の人形だったから。かつてこの家に住んでいたケイト・ペンショウが作り上げた人形の家族は、彼女の死後なぜか命を吹き込まれ、この40年間どうにか人間の「ふり」をして暮らしてきたのだ。人間との直接の接触を避けつつ生計の道を探し、家賃や税金も納めながらひっそりと生活をしていたのである。

   さて、この重大な事件に平行してもう二つ、小さな事件と大きな事件が起こる。小さな方は「ネズミによる、ジュシュアの脚齧られ事件」。そしてもう一つ大きな方は「ヌオバ(新しい)・ピルビームの発見」である。ケイトが作りかけのままにしていたもう一人の家族“ピルビーム”が、スービーによって屋根裏部屋の櫃の中から発見されたのだ。ヴィネッタは彼女を完成させ、ほかの家族たちのように命を与えることに成功する。

   そうこうするうち、アルバート・ポンドの手紙はアップルビーのでっち上げだったことが判明。問い詰められた彼女は家を飛び出し、スービーによる必死の捜索の末、池に落ちてしまったところを発見される。水に濡れることが致命傷である布の人形には、これは恐ろしい惨事であった。恐怖の「入浴」と、戸棚での「乾燥」により、何とか回復はしたものの、それでも反抗的な態度をとり続けるアップルビー。彼女を家族の中に連れ戻したのは、「新しい家族」ピルビームだった。意気投合した二人は、玄関戸棚の中に住み、客の「ふり」をし続けていたミス=クィグリーを家族の一員として家に暮らすようにさせる。

* シリーズについて *

The Mennyms, 1993 

ブロックルハースト・グローブの謎の屋敷, こだまともこ訳,講談社,1995

Mennyms in the Wilderness, 1994

荒野のコーマス屋敷, こだまともこ訳,講談社,1996

「ブロックルハースト・グローブが取り壊されて高速道路が通される?という大ピンチに伴って、今度は本物の人間アルバート・ポンドが家族の前に現れます。」

Mennyms under Siege, 1995

屋敷の中の捕らわれ人, こだまともこ訳,講談社,1996

「ひょんなことから近所の人間が怪しげなメニム家に注目するようになり、メニム家の人々に外出禁止令が出される。しかしアップルビーは我慢ならずに・・・」

Mennyms Alone, 1996

北岸通りの骨董屋, こだまともこ訳,講談社,1997

「“われわれの終わりの時がくると告げる声がするんじゃ”不意にマグナス卿にそんな予感が訪れる。」

Mennyms Alive, 1996

丘の上の牧師館, こだまともこ訳,講談社,1997

前巻のネタバレになるので中身は書けませーん。



*“The Mennyms”と“The Borrowers”

The Mennyms”は、メアリー・ノートンの『床下の小人たち』(The Borrowers, 1952)に影響を受けて作られた物語だという。床下の小人が「小さな人間」であったのとは逆で、彼らは「大きな人形」である。しかし両者とも、普通の人間たちから身を隠して暮らしている。


『床下の小人たち』とは

イギリスの古風な家の床下に住む一家。彼らは「借り暮らし」と呼ばれる絶滅寸前(?)の小人族である。「借り暮らし」は生活に必要なものをこっそり人間から借りて暮らしている。しかしある日、小人の少女が家の男の子に見られてしまうという大事件がおこる(第一巻)。

 …全5巻シリーズ


* 論点 *

*「ふり」をすること。

彼らはもちろん布でできた人形ではあるのだが、人間の等身大である。そのために“人形として生きている”と言うよりは、むしろ人間として(偽って)生きている。

彼らの“ごっこ”は「人間に見られているから」しているのではなく、彼らの生活の一部になっている。そうすることで安心し、自分たちが人形であることを忘れていられるようだ。

 

私たち人間も「ふり」をして暮らしている?


 ※メニム達にとって家族であることは「ふり」ではない


*ブラックユーモア


 おまけ ★

イラストの佐竹美保さんについて語る? 

佐竹美保1957-

富山県出身。高岡工芸高校デザイン科卒業後上京し活動。主に児童書の挿絵を担当し、SFやファンタジーの分野で活動している。『魔女の宅急便』、『魔法使いハウルと火の悪魔』など、よく知られた児童文学作品の数々の表紙や挿絵を描き、この分野では国内で最も活躍しているアーティストの1人といってもよい。作品数は大変多いが画集等は出版されていない。

i かつて石炭輸出で栄えた工業都市。『メニム一家の物語』の舞台の、モデルとなった。

ii 英国で出版されたフィクション児童書に対し年に一度贈られる児童文学賞。日刊新聞『ガーディアン』により1967年に創設された。


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